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CV+GATEの仕様とMS-20mini

電子楽器をコントロールするための方式には、色々あります。一般的な、MIDIにも、レガシーMIDIとUSB MIDIがあります。
これよりも古い規格には、CV+GATEがあります。最近(2013年ぐらいから)また流行の兆しを見せています。

近代の電子楽器は、そのの黎明期(1950-60年代)に、ハラルト・ボーデ博士が提唱した論文などを元に、各シンセサイザーメーカーが、それを商品化して行きました。
このとき、シンセサイザーは、楽器として使いやすくするために、音が持つ基本的な要素として、音高や音色、音量、そして時間的な変化に着目し、それを変化させる機能を、モジュールとして分解されました。この発想は今のシンセサイザーを構成する技術のもっとも基本的な考え方です。
さらに、このバラバラにされた要素(モジュール)を相互に接続するための規格として、CVとGATEが登場しました。(ウィキペディア モーグシンセサイザの脚注に詳細があります)

CVとGateの組み合わせで、モジュールが必要な情報を相互に共有させることで、音程の変と同時に音色も明るくしたい、音量も同時に変化させたいといった、ミュージシャンのリクエストに柔軟な対応が可能になります。
CVは、コントロールボルテージの略で、音高や、音量の大きさや小ささを表現し、Gateは動作するタイミングを決めます。
一口に、CV+GATEといっても、実は、さまざまなシンセメーカーで、さまざまなローカルな仕様があります。

GATE

GateType

Gateは、主に動作するタイミングを決めます。信号の極性を変化したときが、スタート、極性が戻ったときがストップです。
たとえば、鍵盤を押して音を出し、手を離して音を止める、という鍵盤楽器の基本動作なら、鍵盤は押したときにGateはオン、離したときにオフのゲート信号を出します。これを音量を制御するモジュールにパッチして、音が出る、止まるという動作を制御します。

GATE信号のバリエーションは大きく2種類あります。
休止状態のときに、電圧が出ていて、スタートしたときに電圧が0Vになる動作をアクティブ・ローといいます。逆に、休止状態の電圧は0。スタートのタイミングで、電圧が出るタイプをアクティブ・ハイといいます。
オン状態、オフ状態は、それぞれ、電圧が出ているかどうかは、そのシステムが、GATEにどちらの仕様を採用しているかで違います。
場合によっては、動作をはじめるタイミングだけ決めて、終わりは成り行きで適当に、という形のタイミングの決め方もあります。こんな場合には、成り行きとした動作時間をオーバーしないような短いタイミングで、オン・オフを繰り返す信号を使うこともあります。この形式の信号をGATEではなく、トリガーと言う事もあります。
さらに、これらの信号の名称は、メーカーによっても違う事もあります。

CV

keyboard’s positions and frequency

CVは、変化する量を定義します。Gateは即時の変化を伝えるので、タイミングを指定しますが、CVは連続的な変化を表現するときに使います。
たとえば、音高の高い低いや、音量の変化の具合、音色の明るさの程度などです。一般的に、シンセサイザーのモジュールは、供給されるCVの電圧が上がるほど、よりエキサイティングな状況になるように設計されるようです。ツマミの操作によって、どんな変化が起きるかを予想可能にする事は、シンセサイザーを楽器として操作する上で、大変重要な要素の一つだと思います。
音量なら大きく、音色なら明るくなる傾向が一般的です。

一般に正しい音程(二つの音高の隔たり具合)で、正しいタイミングで音がでると、人はそれを音楽として認識できる可能性が上がります。人がそれを正しいと認識できなければ、音楽ではなくたとえば、音響、人によってはノイズに聞こえます。
「一般的」とはなにが基準なのか、または、なにが「正しい」のかは、人によってまったく違うのが当たり前です。風の音を、心を癒す音楽として聴いたり、タイルの道を押す台車の車輪の音にリズムを感じることもあるでしょう。工事現場の騒音に心が奮い立ったりする事もあります。
正しさや、一般性は、多分、時代によってどんどん変化していきますから、ここでは触れません。ここでは、シンセサイザーを操作する上で数値として割り切れる値が出るかどうかを見て行きます。

指数カーブを描く周波数の変化

分かりやすいのは音高です。ある周波数の音があって、それより1オクターブ高い音高に聴こえれば、その周波数は、元の2倍です。220Hz(キーボードの鍵盤で言えば、ラ)の1オクターブ上は、440Hz、さらにもう1オクターブ上は、440Hzのさらに2倍の880Hzとなります。元の220Hzの4倍です。4オクターブ違うと、周波数比は8倍です。(オリジナルのAを0と数えると4オクターブ目は、3となりますから、2の3乗で、8倍になります)このように、音高については、指数カーブを描いて高くなります。周波数と、音階名をエクセルで一覧表にしました。

右のグラフでは、横の軸が、ピアノの鍵盤の位置、縦の軸はその鍵盤の発する音の周波数です。横軸が変化に対して、周波数は指数的に変化します。

ツマミをまわして音高を楽器的に操作する場合でも、同じ角度をまわせば1オクターブ変わるようになっていれば、ツマミの操作でどう音高が変化するかを想像しやすくなり、より、操作しやすいツマミになります。

音量も音高に比べて分かりにくくはありますが同様です。もう1段階大きな音は、元の音量の信号の振れ幅の2倍必要になりますし、逆に、一段階小さな音量にしたければ、半分です。人の耳にとって、連続的な変化として自然に感じる変化の量は、多くの場合、音高の変化と同様に指数カーブを描きます。

人の聴覚には、このような指数的な特性があります。「音」を作るためのCVは、人の聴覚の持つ特性を反映する信号と言う事ができます。

CVのバリエーション

CV+GATEのケーブルには単純に電圧の変化が出ています。たとえば、CVとして、0から10Vまで変化する電圧があるとして、これをモジュール側がこの入力の変化をどう受け取るかと言う点で、CVの仕様が決まります。

ローランドやモーグ、そのほか、ユーロラックなどのモジュラーシンセのVCOは、V/OCT仕様を採用しています。一方、ヤマハやコルグのVCOは、V/Hz仕様と言い、入力した電圧(V)に比例して、周波数(Hz)が変わります。
具体的には、V/Hz仕様のVCOに、1Vから順に8Vまで入力すると出力の周波数は以下のようになります。

  • 1V -> 110Hz
  • 2V -> 220Hz
  • 3V -> 330Hz
  • 4V -> 440Hz
  • 5V -> 550Hz
  • 6V -> 660Hz
  • 7V -> 770Hz
  • 8V -> 880Hz

この方式の利点は、回路がシンプルになります。8Vの違いで、3オクターブ分の変化が得られると言う事です。一般的な生楽器であれば、3オクターブもの音域を持つ楽器はあまりないです。V/Hz仕様では、CVのリニアな変化に対して、周波数がリニアに変化します。1対1の関係です。

一方、V/Oct仕様の場合、入力した電圧(V)に比例して、音高が1オクターブが変わります。(1Vで1オクターブ変わる仕様が一般です)

  • 1V -> 110Hz
  • 2V -> 220Hz
  • 3V -> 440Hz
  • 4V -> 880Hz
  • 5V -> 1760Hz
  • 6V -> 3520Hz
  • 7V -> 7040Hz
  • 8V -> 14080Hz

V/Oct仕様では、回路が複雑になりますが、測定器としての発信器が出力する周波数ではなく、楽器的な音程を管理しやすくなり、より楽器的な操作が楽になります。10Vで10オクターブ、人の耳聞こえるとされる20Hzから20kHzの帯域を一気にカバーできます。実は、範囲を限定しないと楽器的なチューニングを合わせることが出来ないぐらいの帯域です。逆に言えば、楽器として使うのであれば、数Vの帯域をクリアできれば十分ともいえます。

V/Oct式では、どのオクターブでも1Vを12で割った電圧で、音楽的な半音の違いとして周波数に表せます。
これは、低いオクターブの音でも、高いオクターブで鳴らしている音でも、発声している音域を選ばずに、同じ振れ幅の電圧でモジュレーションすれば、同じ振れ幅の音程の変化が得られるとこから、ビブラートを掛けるときに最大の利点となります。

V/Oct方式も、V/Hz方式も音楽的に自然か、数学的に自然か、という視点の違いの方式といえそうです。問題なのは、シンセサイザーをコントロールするための方式としてこの2つが混在してしまっているところです。

MS-20miniをチェックしてみる

2013年に、KORGから30年ぶりに、アナログシンセサイザーの名機といわれた、MS-20が「mini」として、リイシューされました。

鍵盤だけでなく、MIDIやUSBから音程のコントロールが出来るようになりましたが、VCOは、当時のままV/Hz仕様です。

パッチングによってシンセサイザーを構成する要素を組み替えられるMS-20miniですが、MS-20mini以外の他のシンセモジュールとのパッチングには、VCOの仕様の違いで、接続によっては、思ったとおりの結果にならない可能性があります。昨今のモジュラーシンセには、V/Hz仕様のものがあまり無いからです。せっかく、他と接続してナンボと、いえるモジュラーシンセサイザーがリリースされたのに、他の接続できるモジュールとはオシレーターのCVの仕様が違うんです。

特に残念なのは、MS-20 (mini)の鍵盤出力は、V/Hz仕様のオシレーターを正しくコントロールできるように、指数カーブを持った出力になっている点です。MS-20の鍵盤のCVの出力をDoepher のA-100シリーズや、ローランドの、100Mシリーズ(どちらも、V/OCT仕様です)に接続しても思った演奏ができません。また、Korgからも、現行では、V/Hz仕様のCV入出力を持った機種はたくさんありません。

もちろん、モジュラーシンセに、鍵盤を接続して、ドレミを演奏しようとするほうが間違いだという議論も在って当然ですが、据え膳食わぬは男の恥、鍵盤が在ったら、ドレミは礼儀。まずは、セオリーを理解するための一助として、お考えください。

また、アナログステップシーケンサとして有名なdoepherのDarktimeのCV出力とMS-20miniとの接続にも若干の問題が出ます。問題と言っても、機械的に壊れてしまうわけではないので、お持ちなら、ぜひパッチングしてみてください。

DarktimeのCV出力は、V/OCT対応のCVで、(単純に、回転角に比例してリニアにCVが出力されます)。その出力の幅は、1、2、5Vの3つの設定が選べます。一方、MS-20miniのVCOは、1Vから8Vの電圧を受けて、3オクターブ分の音域を発声します。MS-20 miniの鍵盤の一番下のCを発声するには、1V。それぞれのオクターブのCは、下から、2V、4V、8Vとなります。
DarktimeのCVを、MS-20miniのVC1+2 CVinへ接続する場合、Darktimeのレンジが1Vの時は、ツマミを目一杯振ったところで、やっと一番下のCが出ます。
2Vレンジならツマミの半分以上から、5Vレンジなら、1/5のポジション、(ツマミの目盛りは、0から10までですから、2のポジション)から、動作します。

ダークタイムのCV出力で、MS-20miniを鳴らすには、Darktimeの出力レンジをを5Vレンジに設定します。目盛り2以下は、1V以下のなので、2~10までの間で使うようにします。
低いほうの1オクターブは比較的すんなり変化しますが、2オクターブ目からは、さっき回した角度の2倍回さないと2オクターブ上が出ません。
高い音高を出そうと思うと、思いっきりツマミを回さなければなりません。ツマミの回し具合による音程の変化が、音域によって変わると言う事です。
具体的には、Darktimeの目盛り2で、MS-20mini の最低音のCが鳴り、その1オクターブ上のCは、ツマミの位置は4、もう1オクターブ上は、8。一番上のCは出せなくて、ツマミを10にしても一番上のEぐらいまでとなります。DarktimeとMS-20miniは、CV+GATEではなく、普通にMIDIで接続するのが一番自然です。

モジュラー魂

より複雑なモジュレーションをやりたい、ネコを無理やりワンと鳴かすのが、だまし、じゃなくて、魂。濁りの無い、清らかな響き。

V/Hz式のオシレーターの最大の特徴は、回路構造が簡単になること、温度の変化に対する音高のぶれを生む回路を使わずに済ませられることです。最大の弱点は、発声する音域によって、変調する深さを変えないと思った動作にならない事です。
MS-20(mini)は、この欠点をクリアするために、モジュレーション専用のV/OCT仕様のCV入力端子を別に持っています。つまり、鍵盤による音高の安定度の高さは、V/Hz式のはシンプルな回路構成で安定させつつ、モジュレーションの幅の欠点は、V/OCT仕様を部分的に導入することで、良いとこ取りのハイブリッド式でトータルの性能を出しています。

MS-20(mini)では、VCOに対するパッチは、3種類の入力が在ります。Total

  1. パッチパネル部分左側のVCO1の直下のTotal
  2. パッチパネル部分左側のVCO2の直下のFreq
  3. パッチパネル部分右側のVC01+2 CV in

1と2は簡易式のV/OCT用の入力です。これは、VCO1,2のほか、2つのFilterへもCVが送られます。ぞれぞれ、オシレーター、フィルターのMG/T.EXTのツマミで、CVによるモジュレーションの感度を調整します。
2.は、オシレーターのみに掛かります。オシレーターのEG1/EXTのツマミで、モジュレーションの感度を調整します。
3.はV/Hz入力です

試しにパッチングしてみましょう。

モジュレーションホイールの出力を、VCO1+2 CV INにいれて、ホイルを回し音が聴こえるようにします。
鍵盤の最低音を押し、ホイルを操作して、VCO1+2 CV INのジャックを抜き差ししても音程が変わらないセッティングを探します。これで、どの鍵盤を押しても、鍵盤から出せる一番低い音しか出なくなります。
次に、TotalのV/OCT入力に、リニアなCV、または、Darktimeの出力を接続してします。
MG/T.EXTのツマミを操作することで、オクターブの幅を調節できます。僕の機体では、Total、Freqどちらの入力も、MG/T.EXT、EG1/EXT、どちらも、目一杯にセットしたところで、それっぽくドレミが演奏できるのは、1.5オクターブ程度でした。さらに、オクターブのスパンが、VCO1と2とで合わなくなりました。

やぱり、反則ワザは、反則ワザ。ネコはニャーと鳴くのが普通、正しい音程で演奏したいときには、VC01+2 CV inのV/Hz入力にV/HzのCVを入れます。

コマーシャルと謝辞

オリジナルのMS-20の頃には、CVの仕様の違いをコンバートするために”MS-02″という製品がコルグからリリースされていました。
今ではユーロラック系のメーカーから、同様の機能を持ったモジュールが数種類リリースされています。
MS-20 miniのリリースから半年、独立系シンセメーカーのbeatnic.jpも、MS-20miniのデザインと合わせた、”MS-02″と同等の機能を持った製品をリリースしました。「Log/Exp Amp」です。MS-20miniの追加モジュールとして機能します。このモジュールは、

  • MS-20miniの指数カーブを持った鍵盤のCV出力を、V/OCT仕様のVCOを鳴らすために、リニアに変換するLog Amp
  • ステップシーケンサや、TB-303のクローンなど、V/OCT仕様のVCO用のリニアなCVを、MS-20miniのV/Hz仕様のVCOを鳴らすCVに変換するExp Amp
  • MS-20miniのアクティブ・ロー仕様のゲートを、ユーロラックモジュールの多くが採用しているアクティブ・ハイ仕様に変換するGate Inv

の3つのモジュールが入っています。
本文内で紹介したdoepherのDarktimeのCV出力でMS-20miniを鳴らす場合には、間にExp Ampを挟む事で、Darktimeのツマミのポジションは、2、4、8、10で、それぞれオクターブの違うCが出るようになります。(鍵盤からは出せない、2より下、または、8より上の音高は怪しいと思った方がいいです)
これにより、音程(音と音との隔たり)がつまみの回し具合に対してリニアに変化しますので、使いやすくなると思います。

この製品の狙いは、MS-20 miniというシンセの持つ可能性を広げることです。アナログシンセの基本モジュールと鍵盤がセットになった、MS-20miniを中心に、ユーロラックモジュールなど他のモジュールの接続をフォローするのが狙いです。

もう1点、アナログシンセDIYerから独立系のメーカーへと転身した、beatnic.jpならではの提案ですが、シンセの手作りを楽しまれている向きにも、MS-20miniと、この「Log/EXP Amp」の組み合わせはお勧めします。
実は、手作りシンセは、簡単に作れます。音なんか、結構簡単に出ます。難しいのは、それが、正しい音かどうか、で迷う部分です。
正しいも何も、音が出れば正義、でかい音なら最高。まったく正しい。僕もそう思い続けてきました。ただ、メーカーを始めて感じたのは、自分にとって正しい音が、他の人にとっても正しい音なのかどうか、という迷いです。
もう、beatnic.jpでいる限り、死ぬまで迷い続けるのだろうと予感しています。そんな迷いの中に、「今は、これがベスト」という製品作りをしていくのがメーカーとしての立ち位置なのだろうと思います。
MS-20miniは、楽器としての完成度はもちろんですが、僕のアトリエでは、作業の中で迷ったときのリファレンスとして機能しています。単純に基準となる電圧が出て、音も出るメカとして、必須の機材になっています。
シンセの手作りを楽しまれている方にこそ、シンセの基本動作のリファレンスとして、MS-20miniと「Log/EXP Amp」の組み合わせをお勧めします。

takedanotes 再開1号の最後は、今、この時期にMS-20 miniをリイシューされたK社と、アナログシンセビルダーズサミットなどを通して、直接/間接的に御指導くださった、M氏、N氏には、深い感謝を申し上げます。ありがとうございます。

本稿で紹介した各商品は、それぞれのメーカーの商標です。